2018年にbooknerdから文庫化されて発売された『わたしを空腹にしないほうがいい』が、9刷(9000部)となりました。

読者の皆様、各書店の皆様のおかげです、本当にありがとうございます。

この本は最初、俳句のウェブマガジンに無料で掲載されていたものを、自費出版としてほぼ原価で販売していたものです。まったく儲からず、手間も相当かかるため絶版しようとしていたところ、booknerdの早坂さんに見つけてもらい、文庫化。ISBNを取っていないとはいえ全国流通されることになりました。

この本は、正直わたしの、そしてなにより出版の資金の余裕があるとは言えなかったであろう、開店したての小さな書店booknerdの賭けともいえる一冊だったと思います。

それが2年近く静かに売れ続け、全国各地の様々な方のお手に取っていただけること、とてもうれしく、不思議な気持ちです。

9000部、と聞くと「儲かりますなあ」と思う方もいるかもしれませんが、実はわたしはこの本に関しては途中で印税を放棄しています。

実のところ、本の利回りに詳しくなかったわたしと早坂さんは、ここまでの部数を出すと思っていなかったこともあり、素敵な手触りの本にした代わりに原価が結構かかっているのです。本屋さんとしての利回りを考えても、わたしに印税を払うくらいなら、それを本屋の運営資金に充ててできるだけ長く刷り続けてほしい、ということで相談して決めました。売れ続けているものの、それでbooknerdに豪邸が経つようなことは到底ありません。「出版」とか「作家」と聞くと、なぜかすぐに「先生」と呼んでくる人もいて、へんてこなことだなあと思います。世の中的には印税でウハウハ、と思われがちですが、本を出している人の中でも、実際は自費出版と言ってすべて自費で何万、何十万、何百万とかけている人も世の中にはたくさんいます。本を書くだけで生活している人たちの努力を尊敬するとともに、「ご縁があって本を出せるだけでありがたいことだなあ」と思います。

改めて全国各地で頑張っている小さな書店と大きな書店の皆様を応援したい気持ちと、世に出回っている大手出版社の文庫本や単行本は、そりゃあ図書館で借りるよりは高いといえど、良質で安くて素晴らしいな、と思う日々です。出版と書籍にまつわるすべてのがんばる人たちが報われてほしい、継続されてほしい、そのために自分ができることはやはり書くことなんだろうなあと思いながら、今日も原稿を書いています。

ほとんどお墓のようなきもちで、一生に一度の良い経験をさせてもらったなあ、と思っていたこの1冊で、わたしの人生は大きく変わりました。手触りのある「本」として出版したことの意味を、大きく噛みしめています。

一万部になったらお祝いができたらいいな。グッズとか作っちゃおうかな。オリジナル出刃包丁とか、どうですかね。考えておこうっと。