わたしの人生を変えた『わたしを空腹にしないほうがいい』の出版元でもある、岩手県盛岡市紺屋町にあるBOOKNERDという本屋を一人できりもりしている早坂さんが本を出すんだって。

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「本を出そうと思うんだよ」という話は実はずっと前からこっそり相談をされていて、そのときは「へえ、応援しますよ」っていうくらいだったんだけど、内心はあんまり興味がなくて、なぜなら生きている人の自伝的なものにあんまり興味がないからだった。

『ぼくにはこれしかなかった。』がそのタイトルだと聞いた日は(いくらなんでも暗いっていうか、ちょっと謙遜しすぎじゃない?)と心配してすらいた。それなのに、おまけ冊子のために寄稿してほしい、とゲラを読ませて貰って、読み終えるころにはああ!と納得をした。これは早坂さんが死んでから出たのでは遅すぎる。この国でサラリーマンではない仕事で生きていこうとする人や、盛岡のような「シティ以外」で心を豊かにして暮らそうともがく我々にとって、少なからず必要な本だったからだ。盛岡で書店を営む男の人生があまりにも正直に、いばることなく描かれている。それが小説ではなくすっかり事実で、わたしもまるで自分のサイドストーリーであるかのように少なくない頁数登場しているのだからおかしくて笑ってしまった。

『ぼくにはこれしかなかった』というタイトルも、読み終えると俄然、これでなければいけなかったような気がしてくる。考えてみれば、我々は全員「ぼくには/わたしにはこれしかなかった」と思いながら、なんとか日々をやっていくいかないのだ。選んだような、選ばされたような人生に栞を挟みこむようにして、祈るように時々本屋に行きながら。

 

絶版にしようとしていた『わたしを空腹にしないほうがいい』をbooknerdが出版してくれてから、ここまで全国から愛される本になるとは、そしてその本をきっかけに「くどうれいん」として書き続ける人生になるとはあのときのわたしも、早坂さんも思いもしなかっただろう。いまいろいろな出版社の原稿を書かせていただきながら、いまだに不思議なことだと思う。早坂さんが2018年に、自分の本よりも先に、どこの村娘かもわからない私の本を、お店の人生を占うような賭けの出版をしてくれたこと、わたしはおばあさんになるまで感謝し続けると思う。

 

早坂さん、いや、「本おじさん」御出版おめでとうございます! 盛岡で明りを灯し続けるこの本屋と早坂さんの御本が、遠くまで届きますように。

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